第3回目のテーマは「試用期間と解雇の関係」です。

今回は、前回の「試行雇用(トライアル雇用)奨励金」の続きとして、先生方や一般中小企業の経営者の方々に誤解が多いと思われるテーマとして、「試用期間と解雇の関係」についてお話をしてみます。

今回のテーマ「試用期間と解雇の関係」

少人数で事業運営を行っております診療所(クリニック)では、人材の確保は重要な課題となっているかと思われます。しかし、『人』の採用は、実際に雇ってみないと判らない点が多々あるため、多くの事業所では採用の時に判断が難しかった業務適用能力をみる期間として「試用期間」を設定しております。
しかし、期間(日数)設定に関しては労働基準法と一般的に採用されております試用期間では多少意味合いが異なり、そこで解雇に関するトラブルが発生することがございます。

1.労働基準法上の試用期間の考え方とは?
 労働基準法で試用期間が大きな意味を持つものとして、解雇との関係があることは先生方もご存知であるかと思います。そこで「試用期間」と「解雇」の関係について法律上の解釈について説明をいたします。
 ①職員を解雇する場合は、「解雇予告」または「解雇予告手当」という手続きが必要となります。
  解雇予告 ・・・・・・解雇しようとする職員に少なくとも30日前に予告をしなければなりません。
  解雇予告手当 ・・ 解雇予告をしないで即時解雇をする場合は、30日分以上の平均賃金を解雇しようとする職員に支払うことが必要となります。
  ※解雇予告と解雇予告手当の併用の場合もございます
 ②上記①の手続きが不要となる場合(解雇予告等の手続きがいらない者)
  イ.日々雇入れられる者
    ※1ヶ月を超えて引き続き使用した場合は必要となります
  ロ.2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
  ハ.季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者
    ※上記ロ、ハの者でも所定の期間を超えて引き続き使用した場合は必要となります
  ニ.試用期間中の者(14日以内)
    ※14日を超えて引き続き使用した場合は必要となります
    注)14日の日数カウントは労働日ではなく、休日も含めた暦日で行います
 以上でお分りかと思いますが、試用期間の14日以内であれば「解雇予告」または「解雇予告手当」という手続きが不要となります。

『社労士のアドバイス』
 試用期間の法的解釈は、解約権を留保した期間の定めのない労働契約となっておりますが、使用者側に契約の解除が認められております。ただし、通常の解雇より試用期間中の解雇の方が比較的広い範囲の理由で解雇が認められやすいというだけで、解雇理由に正当性がないとトラブルの原因となります。 

2.一般的な事業所で採用されている試用期間とは?
 試用期間自体は、法的な定めが無いため試用期間の長さについては、各事業所で任意で定めても問題はなく、また試用期間を設けなくても問題とはなりません。一般的に各事業所で採用されている試用期間は、業種により異なると思われますが2ヶ月から6ヶ月程度ではないでしょうか。

『社労士のアドバイス』
 試用期間の長さについては、上記の通り法的な定めはありませんが最長でも1年が限度ではないかと解釈されます。ただし、あまり長すぎる試用期間は、職員の不安と勤労意欲等を考慮しお勧めできません。どうしても長い期間が必要と考える場合は、本来の試用期間を2ヵ月から3ヵ月として、期間の延長を行うべきだと思います。また優秀な人材であれば、試用期間の短縮も必要だと考えます。
 
3.試用期間の解雇についての誤解
 前項1と2から誤解が多いのは、試用期間中または試用期間終了時の解雇に関して、労働基準法と一般的に事業所で採用されている試用期間の長さが異なる点から、下記のような内容が挙げられます。
  事業所で定めた試用期間(2ヵ月や3ヵ月)であれば、解雇予告や解雇予告手当がいらない。
  (即時解雇が可能であると思ってしまう)
  事業所で定めた試用期間(2ヵ月や3ヵ月)であれば、一方的に解雇ができる。
  (解雇理由に正当性を欠いてしまう)

『社労士のアドバイス』
 試用期間の解雇に関する留意点について
 ①労働基準法上の解釈である試用期間14日を超えてしまうと、事業所独自で定めている試用期間であっても「解雇予告」および「解雇予告手当」という手続きが必要となります。

 ②試用期間の解雇理由については、通常の解雇より比較的広い範囲で解雇理由が認められるとしても、解雇の前提である「労働者を解雇するには,解雇に値する客観的に合理的な理由が必要である」という労働基準法の適用は残るため、解雇できる理由を採用時に明確にしておく必要があると考えます。

 【正当な事由として解雇が比較的認められ易い例】
  ※試用期間の解雇事由としては、採用時の面接等で判断ができなかった事実が、試用期間中に明確になったものである必要がございます
  ○出勤率の不良(出勤率が90%未満の場合や無断欠勤が3回以上の場合)
  ○勤務態度の不良(上司の注意や指導を受けても改善されなかった場合)
  ○経歴の詐称
  試用期間は、事業所側でも教育や指導を行う期間であることから、不採用事由があったとしても改善を促す必要があり、即時解雇が認められない場合がある点に十分ご留意下さい。
  ※即時解雇は避け、事業所として改善指導を十分行っても不適格と判断される時に解雇を検討することが必要です

4.試用期間の解雇に関するトラブル防止について
 試用期間の解雇に関するトラブルを未然に防止するには、以下のような方法で事前に対策を取ることをお勧めいたします。
 ①職員を採用する時に労働契約書を作成し、試用期間や試用期間の解雇理由を明確にしておく。
  ※労働契約に関しては、昨年(平成19年)12月に公布された「労働契約法」により、今後重要なものとなってまいります。
 ②就業規則で試用期間や試用期間の解雇理由を明確にしておく。
 ③試用期間の延長を労働契約書や就業規則に記載する。
 ④試用期間を有期の雇用契約とする。
  ※各事業所で定めた試用期間(2ヶ月や3ヶ月)で雇用契約を行う
 ⑤労働契約書や就業規則の作成を実施していない場合や、解雇事由が不明確(客観的に判断できない)な場合は、解雇ではなく退職勧奨が出来るように話し合いの時間を多くし円満な解決を図る。
  ※退職勧奨とは、使用者(事業所)が労働者(職員)に退職を勧め、労働者(職員)がこれに合意し、任意退職扱いとするものです

『社労士のアドバイス』
 近年は、インターネットの普及により労働者(職員)も情報の入手が簡単にできる現状をふまえて、「試用期間の解雇」だけではなく、その他の労働条件等についても就業規則や労働契約書で明示できるように整備しておくことがトラブル防止の最善な対策となってまいります。また、前回も記載いたしましたが、社会保険等の加入に関しては、試用期間であっても雇用した日より加入することが必要です。


試用期間とは、雇用のミスマッチを防止し使用者(事業所)と労働者(職員)が業務適正を判断する期間でもありますが、できるだけ試用期間終了後も正規雇用が可能となるように使用者(事業所)が労働者(職員)に対して、指導や教育を十分に実施し、解雇は最終手段として考えるべきものだと思います。
 

  お問合せ・ご相談は下記宛にメール、電話、FAXでお願い致します。
  注)お問合せ・ご相談される場合に既に他の社会保険労務士の先生と顧問契
     約がある方はご遠慮願います。

  保坂社労士事務所
   TEL 029-254-8810
   FAX 029-254-8810
   E-mail srhosakaoffice@ybb.ne.jp

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
029-291-6956

営業時間:AM9:00~PM5:30
定休日:土曜日、日曜日、祝祭日、夏季休暇、年末年始

現在、茨城県水戸市に事務所を置く社会保険労務士(社労士)です。
当事務所は、一人医師医療法人、個人開業医(クリニック)の先生方及び介護福祉事業の経営者の皆様の良き相談役を目指し努力してまいります。当事務所の活動地域は水戸市、ひたちなか市、笠間市、那珂市、東茨城郡を中心に考えております。

就業規則診断(無料)

お電話でのお問合せ

029-291-6956

<営業時間>
AM9:00~PM5:30
※土曜日、日曜日、祝祭日、
夏季休暇、年末年始は除く

保坂社労士事務所

住所

〒311-4142
茨城県水戸市東赤塚2081-1
キューコートアカツカ502

営業時間

AM9:00~PM5:30

定休日

土曜日、日曜日、祝祭日、
夏季休暇、年末年始